花鎖に甘咬み
「真弓はたしかに強い、けれど……。だからって無茶していいわけじゃないよ。怪我していいわけじゃない」
真弓の手から消毒液を奪う。
それをひたしたコットンでそっと、真弓の傷口をぬぐった。
染みたのか、真弓がぴくりと眉を動かす。
「私は、真弓にもっと……、自分の体を大切にしてほしい」
「別に、俺の体なんてどうでも」
「っ、よくないよ!」
思わず、お腹の底から声を出す。
だって、そんなのいいわけない。
「私が、よくないもん。真弓が傷つくところは、見たくないよ。だって……」
だって。
「真弓が大切だから」
それで助けてもらった分際で言えることじゃないけれど、あまり、無茶をしてほしくない。さっき、あの場所に飛び込んできた真弓は、ほんとうに無茶だった。
それだけじゃない。
ご飯を抜いたり睡眠を削ったり。
どうにも、真弓は自分を適当に扱っている気がして。
どこか投げやりなのはきっと気のせいじゃなくて、それが、不安で。
細かく真弓の肌についた傷をひとつひとつ、丁寧に消毒していく。
数えきれないほど残る傷跡は、これまでも、真弓が無茶をしてきた証拠だった。
「……ちとせ、もういい」
「っでも、まだ傷が────」
「いいから」
真弓の腕がすっと伸びてきて、私の後ろ首を掴まえた。
そのまま、ぎゅっと抱えこまれる。
抱きしめられて、真弓がそっと私の肩に頭をもたげた。
「気配がして、風呂場から出てみれば、もうお前は連れ去られたあとで」
耳元、くすぐったい音量で真弓が囁く。
どこか弱々しく思えるのは、気のせいなのだろうか。