花鎖に甘咬み



「あのときは、マジで」



何かをこらえるような苦しげな声。



「……心臓、止まるかと思った」




思わず、息をのむ。

真弓がそんなことを考えていたなんて、知らなかった。

やっぱり、真弓が優しくない、なんて嘘だよ。




「お前に、傷ひとつつけたくない」




ぽつり、呟く真弓の声はやけに切実で。
胸の奥がじん、と熱くなる。




「……あのね」



言ってもきっと笑われるだけだからって、胸の奥に閉じこめておこうと思ったけれど。

真弓なら実は、ちゃんと受けとめてくれるのかもしれないと思って、口を開く。




「真弓が壁を壊して乗り込んできたとき、思ったの」




ヘッドライトの光を背負って、神々しく現れた真弓は。




「王子様みたいって」




口にすると、急に恥ずかしくなる。
さすがに子供っぽすぎたかもしれない。


でも、真弓は少しも笑わなかった。


反対に、ハッと目を見開いた真弓は直後、ごくりとなにかを飲みこんで、視線を逸らす。




「馬鹿じゃねえの」




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