花鎖に甘咬み



「あのね、だからね」



真弓はちゃんと耳を傾けてくれている。
こういうところだ。


私は、この人の、こういうところが好きで仕方ない。

ちゃんと私を、私のまんま、受けとめてくれるから。




「次にキスするときは────5回目のキスは、ちゃんと、私のことが好きって気持ちで、してほしい……」

「……」

「っ、なんでもひとつ、言うこと聞いてくれるんでしょ?」

「それ、ここで使うのかよ」

「う、うん」




愛のあるキスが欲しい。

なんて、おこがましい願いごとなのかもしれない。



真弓の何を考えているかわからない表情を見つめる。

一瞬、影がさしたような気がして、でもまたすぐに戻って。



人さし指の甲で、そっと私の頬にふれた。

わずかに、かすり傷を負った場所を癒すように。




「……わかった」




小さく真弓が呟く。

ほっとして、そしたら、急に眠気が襲ってきた。


そういえば、今って何時────たしか、ミユキさんたちに連れ去られたときには、もうけっこういい時間だったような。


夕食も食べそびれたし、いいやそれよりも、瞼が重い……。




毎日毎日不規則な生活を送っていると健康によくないな、なんて思いつつ、抗えない夢の世界へと誘われていく。


察したのか、真弓が手のひらで目を覆ってくれて。


心地よい暗やみのなか、意識をふっと手放した。







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