花鎖に甘咬み

× × ×



夢を見た。



すりガラス越しに見る景色のように、ぼやぼやして色もにじんでいて、よくわからなかったけれど、真弓がいるのはわかる。


目の前に真弓がいて、穏やかに笑っている。



真弓はスプーンですくってなにかを食べて。
なにかを私に言って、ふは、と笑った。



────そういえば、せっかく真弓と一緒につくったシチュー、食べられなかったな。

もったいないことをした。
食べたかったなあ……。




「……」




ぱち、と意識が覚醒する。

見慣れない赤色の天井に、ハッとした。

そうだ、ええと、ここは────。




「おはよう」

「!?」



真弓の声じゃない。


びっくりして上体を起こすと、ベッドのそばの椅子に暗赤色の髪の男の人が座っていた。男の人、というより男の子……のような見た目の。


混乱がひしめきあう頭のなかから記憶を引っ張り出す。




「あ、燈さん、ですよね……?」





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