花鎖に甘咬み
「頼み?」
「そう。昨晩、ちぃちゃんが〈白〉に攫われたって気づいて、真弓は真っ先に僕のところに来たんだよ。『いいから手を貸せ』って、すんげえ横暴なの。説明もテキトーでさ」
「真弓が……?」
「そうだよ。意外だった?」
「いや……」
真弓が誰かに助けを乞うところは、正直うまく想像できない。
極力誰の力を借りたがらないひとだと思う。
けれど。
「意外、では、ないかも。全然ありえるなって思って。たぶん……真弓は、真弓自身のために誰かの力を借りることはしないけれど、他の誰かのためなら────昨日は、私が、危なかったから」
「……」
「私のために、燈さんの力を借りたがるのは、わかります。……真弓は、優しいひとだから」
“優しい” と言うと誰もが否定する。
伊織さんや純圭さんだけじゃなく、真弓自身でさえも。
燈さんも、否定するだろうか。
ごくり、固唾をのむと、燈さんは少し目を見張る。
それから感心したように、ふっと表情をゆるめた。
「なるほど。よく見えてるね」
「え……っ?」
「これは確かに、さすがの真弓も手放し難くなるか」
独りごちた燈さんの言葉の意味はよくわからなかった。
もともと聞かせるつもりもなかったのだと思う。
す、と表情を元の状態へと戻した燈さんにふつふつと疑問が湧いてくる。