花鎖に甘咬み
「文字通りの無法区域だ、少なくとも女子供がこんな夜中にうろついて無事でいられる場所じゃない」
わかったような、わからないような。
まだこの場所の輪郭を、正確には掴めずにいるけれど、曖昧にこくん、と頷いた。
「まだ聞きてーことがあるって顔だな」
「うん……えっと、さっき、私を追いかけてきてたフードのひとたちは、何者?」
「ああ、あれな」
よほど複雑なのか、どう説明するか言葉に迷っているようだった。数秒して、真弓は噛みくだくようにゆっくり話しはじめる。
「〈薔薇区〉は男を中心に大きく2つの勢力に分かれてる。勢力……っつうか、やってることはほぼ暴走族みたいなもんだがな」
ぼうそうぞく……。
耳なじみのない言葉だった。それもそのはずかもしれない、白百合に在籍し、北川に身を置いていれば、ふつう縁のない言葉だ。
「ええと、バイクで走ったり……?」
「そんなカワイイもんじゃねえ。もっと生々しい抗争、血みどろなんてザラにある」
血みどろ……。
あまりに現実味がなくて、ちかちかと目眩がする。
ほんとうに異世界に迷いこんでしまったよう。
「二つの勢力っつうのが、保守派のKardinalと急進派のKir」
「カ……? キー……?」
「ま、いちいち覚えてらんねーよな。〈赤〉と〈白〉でいい」
「赤と白?」
「カーディナル、俗称〈赤〉。キール、俗称〈白〉。それぞれ赤薔薇と白薔薇が紋章になってる」