花鎖に甘咬み
× × ×
「ミルクは要る? 砂糖は?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます……」
仕切り直し、と燈さんが淹れてくれたコーヒーに口をつける。
ブラックコーヒーの苦味が舌をひたしていく。
あたたかいそれをごく、と飲み込んで、ほう……と息をつくと。
「さて、何から話そうかな」
同じくコーヒーカップを片手に携えた燈さんが、迷うように顎に指をあてた。
「ところで、ちぃちゃんは〈薔薇区〉についてどこまで知ってる?」
「どこまで、というのは……」
「質問を変えようか。真弓から、〈薔薇区〉についてどういう風に説明を受けてる?」
えっと、と言葉を探す。
「茨の柵に囲われているから〈イバラ区〉、転じて、〈薔薇区〉……政府の指定危険区域で、それも人工的な」
ええと、それから。
「害になるとみなされた“ならず者”を閉じこめておく、一生出られない、事実上の監獄……?」
記憶のなかの真弓の言葉を、なぞって口にする。
自信なく口を紡ぐと、燈さんは緩慢に口角を上げた。
「そう、表面上はね。そういう “体” を保ってる」
「……え」
「半分正解で、半分不正解ってとこかな」
意識的にか、無意識にか。
燈さんの指先が、こめかみの赤薔薇をそっと撫でた。
その仕草に息をのむ。