花鎖に甘咬み
「搾取の……」
反芻して、はっと目を見開く。
言っていた、と思う。
誰だったか────ううん、誰かひとりが言っていたんじゃなくて、誰しもが、口を揃えて。
でもその意味はわからない。
答えを求めるように燈さんの瞳をじっと見つめると、彼は軽く頷いた。
「〈薔薇区〉がどうして、何のために存在しているか────……蓋を開ければ、単純明快なことなんだよ。僕らを生贄にするためだ」
「いけにえ?」
「そう。そもそも、〈薔薇区〉はもともと〈薔薇区〉として存在したわけじゃない。北区を高い茨の柵で囲って、その中に人間を閉じこめて……政府指定の危険区域なんてモノに仕立てあげたのは、紛れもなく政府のお偉いさんなわけで」
「……っ」
「わざわざそんなことをしたのは、人間を欲してるからだ。それも、ふつうの人間じゃない。“捨て駒” として “使える” 人間がね」
カップを持つ指先が、無意識にカタカタと震える。
〈外〉にいたままだったら、きっと、一生触れることもなかったトップシークレット。
繰り広げられるのは耳を疑うような絵空事に聞こえるのに、どうしても「嘘だ」と思えないのは、燈さんのまとう空気が柔らかいながらも、ぴりぴりとした緊張を孕んでいるから。
「捨て駒……っていうのは」
「新薬の開発実験に、汚染地域の調査、要人の警備────極めて危険度の高いプロジェクトに投入するための人間。ま、人間っていうよりは “ヒト” だよね」