花鎖に甘咬み
ひょい、と何でもないように肩をすくめた。
そんな燈さんの瞳に宿るのはほの暗い影で。
「それがお偉いさんたちの考えることなんだよ。自分たちの利益が得られるならば、多少の犠牲くらいどうってことないってね。……むしろ、犠牲とも思ってないんじゃないかな。パズルのピースを嵌めるような感覚で、ぱちん、ぱちん、ってさ、ひとり、またひとり、消してくんだよ。あの人たちは」
息が浅くなる。
そんなわけないのに、急に酸素が薄くなったような気がした。
“生贄” なんて、そんなこと。
……あっていいわけがない、のに。
「弱い人間から順番に、いなくなってしまう。希望も矜恃も、最後にはその命さえも、全部、搾り取られて。だから“搾取”の街なんだ。未来なんてどこにもない、終わりを待つだけの────そんな人間が間違っても逃げ出せないように、茨で覆って閉じこめた禁忌の区域。……それが、〈薔薇区〉のほんとうの姿」
息をのんだ私に、燈さんはふっと口角を上げた。
「どう? 引いた?」
「今さら、驚いたり、引いたりは、しないですけど……」
この街に足を踏み入れたときから、その気配は感じていた。
どの場所とも違う、この場所にしかない “異質さ” を。
だから。
驚いたりはしない。引くこともない。
────だけど。