花鎖に甘咬み



同情するように瞳を伏せる。
そのまま燈さんは、ぽつぽつと語っていく。



「真弓の父親は、闘争に揉まれているうちに見失ってしまった。目的のために、必要だったはずの権力が、いつのまにか権力を目的とするように────そのためなら、手段を選ばないように。“要らない”モノや人間は切り捨てて、“使える”モノを残す。……まあ、政界とかいうこじれた世界では、それも賢い生き方ではあるんだけどね」



だけど、それがもたらしたのは、悲劇だ。



「最初に見限ったのは真弓の母親だった。穏やかで純真な性格だった彼女は、早々に耐えられなくなった。それで夫に離婚を突きつけるわけだけど、問題はふたりの子どもだ」


「……」


「母親はたしかに、ふたりの子どもを等しく大切に思っていたはずだよ。……だけど、彼女ひとりの経済力じゃあ、ひとりを引き取るのが限界だった。母親は、弟を選んだ。まあどちらを引き取るかとなれば、幼い方が心配になるのは仕方ないことだ。────母親の選択は、なにも、間違っちゃあいない」



だけど。




「まさか、こうなるなんて、母親は予想もしなかった。それだけだ」

「……っ」
< 236 / 339 >

この作品をシェア

pagetop