花鎖に甘咬み
「はは。信じられない? でも、ほんとにあのときの真弓は獣みたいだった。“猛獣” って未だに呼ばれるのも納得できてしまうくらいには、とんでもなかったよ」
でも。
「────あれが真弓なりの “消化” だったんだろうな、って今ならわかるんだ。一度は愛されていたはずの実の親に捨てられた、しかもこんな無秩序で狂った場所に、たったひとり置きざりにされてさ。悲しいとか怒りとかそんなんもう全部飛び越えて、ぶっ壊れるくらいの絶望を暴れることでどうにかしようとした」
燈さんがふー……とため息をつく。
重く重く染み渡っていく。
「真弓は、あのとき全部諦めてしまったんだよ」
「諦めて……って、何を」
「全部」
「ぜん、ぶ」
「怒りも悲しいも、怒りも辛いも、楽しいも幸せも、恋も愛も。最初からなかったなら、遠ざかっていく苦しみを知らずにすむから」
「……っ」
「真弓には『感情がない』んじゃない。『なかったことにした』んだよ。なかったことにした方が楽になれるって、あいつが自分で手放してしまった」
息をのむ。
ごくりと喉が鳴って、口が乾いていく。