花鎖に甘咬み
「どうして、そんな大事な話を、私に……するんですか」
「僕は、ちぃちゃんに賭けてるんだ」
「賭け?」
きょとんと首を傾げると、燈さんはふっと笑った。
そして私の首元をじっと見つめて。
「真弓の噛みつき癖、あれって、何だと思う?」
「え……何って」
噛みグセは噛みグセなんじゃあ……とあたりまえのことをぐるぐる考えていると、燈さんはにやりと笑う。
含み笑いで、でも、どこかにほんのり優しさが見え隠れしていて。
「噛む癖って、動物の本能らしいよ」
「本能? どういう意味の……」
「まあ、マーキング行為ってのが妥当だろうね。自分のモノだって名前書いておくようなもの。要するに、傍にいてほしいんだよ。失うのが怖い、離れていってしまうのが怖い、ずっと近くにいてほしい。……それを、言葉にするのも怖い」
燈さんは、いつのまにか空になっていたカップをサイドテーブルにことりと置いて。
おもむろに私の手を取った。
単なる握手かと思えば、カサリと小さな紙の感触がする。
「僕は、ちぃちゃんに賭けるよ」
「賭けるって……っ」
「真弓のことを、僕は救ってあげられないから」
それってつまり────……と言葉の裏を読もうとしたタイミングで、ドンドンドン! と乱暴にドアをノックする音が響く。
「時間切れだね」
燈さんが小さく呟いて立ち上がる。
きょとんとする私を見下ろして、そっと。
「ソレ、いつでも頼ってくれていいよ」
「へ?」
ふっと笑った燈さんは、すたすたと扉の方へ歩いていってしまった。