花鎖に甘咬み
「真弓、〈白〉の動きは?」
「もうかなり近くまで迫ってきてるな。もってあと数分ってところか」
「そんなことだろうと思った。純圭はムダに嗅覚いいからなー」
厄介厄介、と呟いた燈さんは、次の瞬間一気に “統率者” の目をして。
「今のうちにここはもう出るしかないね。僕が囮になる。花織の部隊に〈白〉の足止めをさせるよ。ちぃちゃんは真弓に任せた」
「ああ」
「〈白〉の狙いは真弓。できるだけ目をくらませることだね。それから────“異端の黒”の動きにも注意して。黒のヤツらはずっとちぃちゃんを探してる。侵入者である以上、見つかったら即消されるよ」
「わかってる」
真弓が頷くのを確認して、燈さんは扉へと向かった。
出ていく直前、振り返って。
「僕が先に行く。できるだけ〈白〉のヤツらを釣るから、1分後に真弓とちぃちゃんはここを出て」
そう告げて、ほんとうに出ていってしまう。
見えなくなった背中に、どっと不安が押し寄せてくる。
だって、あの〈白〉のひとたちの中に、たったひとりで────。
「燈さん……大丈夫、なの……っ?」
思わず口にすると、真弓が私の頬をふに、とつまんだ。
「心配すんな。ちとせが思ってる数倍はあいつ、強いから」
真弓がそう言うのなら、信じるしかない。
押し寄せてくる不安の波をぐっとこらえて、唇を結ぶ。
と、ふいに真弓が私の腕を掴んだ。
「きっかり1分だ。俺らも出るぞ」
「う、うん……!」