花鎖に甘咬み
「……いるな」
「え?」
「〈白〉。角曲がったところに、ふたりだ。下っ端だから問題ねえな、そのまま突っ切るか」
状況を理解するより先に、角にさしかかって。
真弓の言葉どおり、人影がふたつ飛び出してきた。
名前も知らないそのふたりを、真弓が肘でなぎ倒す。
あっけなく地に伸びたふたりに、ちくりと胸の奥が痛む。
顔や手足のあちこちに残る痛々しい痣は、きっと今回の戦闘でできたものだけじゃない。何度も何度も、こういうことを繰り返して────……。
『生きている実感が湧くから』
『殴られ蹴られれば、多少痛みは感じる。血も流れる。脈がドクドク打って、それで、ああまだ俺は生きてんだなって思える』
純圭さんの言っていた意味が、今なら少しわかる。
〈薔薇区〉がどういう街なのか、知った今なら。
終わりに向かっていくだけしか許されない街では、これだけが唯一 “生きていること” を実感できるのかもしれない。
「ちとせ」
真弓の声が私を現実に引き戻す。
「ぼーっとしてる暇はねえ。行くぞ」
「う、うん」
「……チッ、今度は3人か」
道の脇からまた現れた人影。
ぱたり、ぱたりと真弓に払われていく姿は、あっけなくて。
────切なくて、苦しい。