花鎖に甘咬み


聞いたこともない大声で、真弓が突然声を荒らげる。

全く予想もしなかったことで、思考が停止して。

咄嗟に背後を振り向いた瞬間、銀色が閃いた。



「っ、え」




何もわからないまま立ち尽くすことしかできないまま────手のひらから力が抜けて、カランと音がした。


鉄パイプがすり抜けて、地面にぶつかる音。


次の瞬間、左腕に鋭く焼けるような痛みが走る。

よく理解できないまま、腕を視界に入れて、息をのんだ。




「……っ、ぁ」




喉がひきつれて、呼吸がうまくできない。

本当にショックなことが起きると、人間は声が出せなくなるんだって、はじめて知った。


叫び暴れるどころか、むしろ、一周回って頭が冴えて、視界に入ったものを冷静に分析しはじめる。




……腕に、ナイフが刺さっている。刺さったところから、とめどなく赤い鮮血が流れてくる。生ぬるいそれが腕を伝って、鼻にかすめる鉄の匂い。痛い。猛烈に痛い。皮膚が切り裂かれてぐさりとやられるとこんな感じなのか、でも幸いそんなに深くはなさそう────。





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