花鎖に甘咬み
冷静にあれこれ考えて。
だけど、心が追いつかなくて、冷や汗がたらたらと背筋を伝う。力がどっと抜けて、その場にぺたりとしゃがみこむと。
「ちとせ!」
余裕のない声が鼓膜に突き刺さる。
驚いて振り向けば、怪我をした私より、ずっと取り乱した真弓がいた。
おかしいな、真弓はこんなの見慣れているはずなのに、冷静さがどこにもない。
せめて 『大丈夫だ』と伝えたかったのだけど、声にうまくならなくて。
「ッテメエ、ふざけんな! お前、マジで、……マジで自分が何したかわかってんのかよ。こいつは────こんなことして俺が────俺はッ、クソ、こんなことなら」
真弓は唸る声を上げて、私を襲った男の人の胸ぐらに掴みかかる。
噛みつかんばかりの勢いにおされて、その男の人はあっけなく地に崩れた。
真弓が吐き捨てた地を這うような低音は、聞いているだけで震えてしまうくらいで。はじめて〈猛獣〉の一面を見た気がした……けれど。
だけど、真弓の顔が尋常じゃなく青い。
ひどく青ざめた真弓の肌は、私より血の気がない。
心配になって、手を伸ばそうとするけれど────遠く届かないまま、緊張の糸がぷつっと途切れて、視界が黒一色に反転する。
「……最初から、諦めてれば」
ぽつりと落ちた〈猛獣〉の呟き声を拾い上げる者は誰もいない。