花鎖に甘咬み


「まーゆーみー」



普段寝ないのに、1度眠りにつくとなかなか目覚めないのも健在で。

けっこうな声量で名前を呼んでも、体を揺すっても、どういうわけか固く瞳を閉じたままだ。


「もうっ、真弓、起きてってば!」


抱き枕かなにかと勘違いしてるんじゃないかと思うほど、ぎゅっと捕まえられたままの腕をなんとか振り抜くと。


ぱち、と突然真弓の瞳が開く。



「……っ、ちとせ?」

「やーっと起きた!」



寝起きの悪い真弓にむっと頬を膨らませると、真弓はハッと真顔になって、私の体を頭のてっぺんからつま先まで視線でたどる。



「……無事か?」

「な、寝ぼけてるの?」



きょとんと瞬きを繰り返すと、真弓は私の額に手の甲をあてる。

それからぺたぺたと頬から首、肩にふれて、最終的には左腕の包帯をそっとなぞった。


そして、薄く息を吐き出す。



「伊織は?」

「ごはんを用意するって」

「あー……」



ぼんやりと宙を見つめて、おぼろげな相槌をうつ。

真弓の様子がなんだか変だ。


素っ気ないというか、心ここにあらず……というか。



「おーい、ごはんできたけど」



そのときキッチンの方から、伊織さんの声がする。



「ああ、食う」


二つ返事ですたすたとキッチンに向かう真弓の背中を追った。

真弓の様子が変だった理由は聞けずじまいのまま。




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