花鎖に甘咬み
「そうだ、マユ。例のブツは入手してある」
「……ああ」
真弓が伊織さんから、後ろ手になにかを受け取った。
その “なにか” はちょうど影に隠れて見えなくて。
「簡単にパシってくれるけど、俺もこれ以上は怪しまれる。今回が最後だと思って」
そして、伊織さんは軽く目を伏せる。
「ソレさあ、ちぃちゃんに話す気はないの? 彼女、なーんにも知らないって顔してるけど」
「ねーよ」
「……うわ、ほんと残酷だね」
伊織さんは引きつった笑みを浮かべて、お皿を片づけに行ってしまう。
なんの、話だろう。
疑問に思って真弓の袖をちょいちょいと引いてみる。
「真弓。さっき伊織さんが話してたのって、なんのこと?」
「別になにも」
「っ、でも、私の話してた……」
「何もねえよ。ちとせが知るようなことは何も」
関わってくるな、と突き放さんばかり。
冷たいとはまた違う拒絶に、苦しくなる。
なんだか、今日は真弓が遠いな。
「飯も食ったし、そろそろまた出る。準備しろよ」
「今日はどこに?」
「……安全なところに」