花鎖に甘咬み
× × ×
真弓の言葉どおり、あのあとすぐに外に出た。
夜よりは日が出ている今の時間の方が、ずっと安心だ。
死角が少なくて、実際、日中には抗争はぴたりと止むらしい。
昼夜問わず見回りを繰り返している〈黒〉の動きにだけ気をつけていればいいのだと真弓が言った。
「マユ、俺は一旦離脱して、南4番地に向かう」
「ああ」
「また後で」
伊織さんは途中で、どこかに去っていく。
どこに行くんだろう、と疑問を真弓にぶつけてみたけれど、答えてくれることはなかった。
代わりに、なぜか真弓の方がまったく別ベクトルの疑問をぶつけてくる。
「ちとせ」
「うん?」
「お前の父親ってのは、どんな人なんだ」
「お父様っ?」
あまりに急な質問。
びっくりしつつ、お父様のことをゆっくりと頭に思い浮かべてみる。私がこの街に足を踏み込むことになった原因、張本人だ。
「……北川の家には欠かせない人。頂点に立っていて、誰も彼には逆らえない。頭の中は北川の事業のことばっかりで、北川家がどうしたら存続していけるかってことしか考えてない。そのためには、娘の私だって動かすの。お父様と向き合うといつも息が苦しくて、だから……大嫌い」