花鎖に甘咬み
「っ、おい! あれ〈猛獣〉じゃねえか!?」
突然、鋭い声が突き刺さる。
「ハッ? いや〈猛獣〉とターゲットの女の目撃情報は別の部隊から報告が……」
「あれはダミーだったってことだろ! いいから追いかけろ!」
「つってもこっちは人員が────」
ざわざわと辺りが騒がしくなる。
向けられる視線に声、すっと周りの温度が下がるようなこの感覚は────“異端の黒”の人たちだ。
背筋をつめたいものが駆け上がって、思わず体がすくむ。
それに対して真弓は眉ひとつ動かさない。
少しも動揺しないまま、まるですべてが、“計算通り” だったかのように。
そして、真弓はブレーキを勢いよくかけた。
キキキ────ッ!
「っ、きゃあっ!」
けたたましい音とともに、急カーブする。
突然停止した車体に体が追いつかず、投げ出されるような形で体がぐらりと傾いて────そのまま真弓が私の腕を強引に掴んだ。
「ちとせ! 降りるぞ!」
「っ、へあっ?!」
バイクを降ろされて、わけもわからないまま、真弓に導かれるままに走る。
どこに向かっているのかも、何が起きているのかも────これから何が起きるのかも、なにひとつ知らされないまま。
「考えるな!前だけ見ろ!」