花鎖に甘咬み
「……っ」
考えなくても、いいの?
喉に、小骨のように引っかかっていることがいくつもある。ほんとうは、考えなくちゃならないこと、きっと、考えないと、だめなのに。
「そのまま真っ直ぐだ! 真っ直ぐ走れ!」
容赦なく迫り来る追手と、いつになく真剣な顔つきの真弓が、思考回路を奪う。
真弓に言われるがままに、駆けて、駆けて、ひたすら駆けて。
たどり着いたその先は────……。
「……え」
足が、ぴたりと止まる。
違う、止まらざるを得なかった。
「行き、止まり……?」
息をのむ。
目の前に立ちはだかるのは茨に覆われた高い高い柵。
右にも左にも進める道はなくて、ちかちかと目眩がした。
なんで、どうして。
いやそれよりも、早く。
「っ、真弓! 〈黒〉の人たちがこっちに来るまでになんとかしなきゃっ、今ならまだ逃げ────」
「無駄だ」
「で、でもっ、このままじゃ……」
「ちとせ。いいからよく聞け」
真弓が落ち着いた声で遮った。
怖いくらい落ち着き払った声で、真弓は言葉を続ける。
「逃げ場はない。ここから動いたところでかえって追手が増えるだけだ。どうせ、すぐ〈黒〉はここに来る。ふたり揃ってジ・エンド」
「そんな、わけ」
なにかがおかしい。
本能がそう言っている。