花鎖に甘咬み
おかしい。
ずっとなにかを隠しているようで、〈黒〉の人たちと鉢合わせでも顔色ひとつ変えないで、そもそもこの街を知り尽くしているはずの真弓が行き止まりに案内するはずが────。
違和感の答え合わせは、すぐだった。
「ただし、勝算はある」
シャラン、と金属音が響いた。
無機質な音が鼓膜に跳ね返る。
夕日と入れ替わりに空に昇ってきた月の光が “それ” を煌々と照らした。
「それ、って」
見覚えのあるウォード錠。
重厚な見た目の〈金の鍵〉を、真弓は行き止まりのはずの柵に突き立てた。
カチャリと小気味よい音がする。
「待って、それは伊織さんに返したんじゃ、なかった、の?」
疑問には答えることなく、真弓はじっと私を見下ろした。
漆黒の瞳が私を真ん中に映している。
「勝算はある」
「なに、を……」
「ここから〈外〉に出られる。お前は〈外〉に出ろ」
「真弓はっ?」
「ここに残るに決まってんだろ。こんな状況、ひとりならどうとでも対処できんだよ」
「それなら私もっ」
「わかるだろ? 足手まといだって。邪魔だ、お前がいたら俺は動きづらいんだよ。さっさと出てけ」
わざと突き放すような言い方に、ハッとする。
「っ、まさか、最初からそのつもりで────……」