花鎖に甘咬み
銀糸をぷつりと切った真弓は、余韻を消して、扉をギィィと押し開ける。
そして促すように、私の背中をとん、と押した。
バタバタと足音が近づいてくる。
時間の猶予がない。
わかってるの。
わかってるんだよ。こうなったからには、私がここに残るわけにはいかないんだって。逃げ場のない場所で、私を守りながら闘うのは無理だ。私がいれば、真弓はほんとうに────……。
真弓の無事を願うなら、私は出ていくしかなくて、それをわかっていて真弓はこれを仕掛けたんだろう。
ずるいよ。
ずるいんだよ、真弓は。
「約束しろ」
首を横に振るけれど、構わずに真弓は私の耳元で低く囁いた。
「────もう戻ってくんな、絶対に」
その瞬間、背後に怒号が聞こえる。
真弓の正面を〈黒〉の人たちがぐるりと取り囲んでいる。
走るしかなかった。
為す術なく、扉に向かって、まっすぐと。
開いた扉の向こうに足を踏み入れかけて、振り返る。
「……っ」
好き勝手されたからには、やっぱり文句のひとつくらいは言わなきゃ気が済まなくて。