花鎖に甘咬み


「真弓のばかっ!あんぽんたん!わからずやっ!」



ふとポケットを探る。
……あ、あった。


掴んだそれを、振りかぶって、投げる。

いつの日かの華麗な投球────ならぬ投ブローチは衰えておらず、弧を描いたすずらんのブローチは、真弓の肩に直撃した。



「それ、捨てたら許さないからっ!!」



今度こそ、扉の向こうに足を踏み入れれば、すぐさま背後で扉がガチャンッと閉まった。

振り向いても、茨しかなくて、真弓の姿はもう見えない。



力が抜けて、ずるずるとその場にしゃがみこんだ。
魂も心もどこかに抜けて空っぽになってしまいそうだった。



思い出したんだ、北川の家の花、すずらんの花言葉は《純潔》、それから────《再び幸せが訪れる》。



「どうか────……」




祈るように呟くことしかできない。



× × ×



分厚い茨の柵の反対側。
無数に傷をつけた〈猛獣〉がそっと呟く。



「……どうか」



〈猛獣〉とはかけ離れた人間じみた声で。



「────どうか、ちとせがずっと、この先ずっと幸せであれば、それでいい」





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