花鎖に甘咬み
第 IV 幕
踊ってすりきれた靴
× × ×
「お嬢様、どちらへ行かれるんですか」
「ちょっと! もう “お嬢様” はやめてって何度も……」
「ですが他に呼びようが」
「 “ちとせ” でいいの!」
すたすたと風をきって歩く私の後ろを燕尾服がはためく。
悔しいことに、柏木の方がずっと足が長い。そのくせ、私の方が必ず前にいるのは────つまり、そういうことだ。
くるりと振り返ると、驚いた柏木がつんのめって立ち止まった。
「あのね。私のぴったり二足分うしろを歩く、とかもうしなくていいの。普通に隣を歩いてくれればいいの。……もう“執事”と“お嬢様”じゃないんだから」
「……かしこまりました」
「その堅苦しい敬語も禁止!」
「……わかったよ」
ほんとうのところは、柏木とこうしてまた話していることが不思議だ。あの一方的な別れのあと、再び会うことなんて、もう二度とないと思っていた。
思っていた────のだけれど。
思わぬ再会は、遡ること1日前。
〈薔薇区〉の外に転がり出て、茨の柵を背に、立ち上がることもできずに座りこんで、うずくまっていた私の前に。
『ちとせお嬢様』
『……え』