花鎖に甘咬み
『は? どこをどう解釈したらそうなるんです?』
『だって。私、ひどいこと言った……。あんな突き放し方して、柏木にはもう嫌われただろうなって思ってた』
『舐めないでください。あれくらいでは、お嬢様のことは嫌いにはなれませんよ。それに……お互いさまですから』
『え?』
『私も、自分の都合のために、お嬢様の気持ちを無視しましたから。お互いさまです』
柏木が黒いスーツの袖から腕を伸ばす。
うやうやしく、丁寧な所作で手のひらを差し出した。
『帰りますか?』
『……』
うつむく、あの家に戻る覚悟はまだ固まっていない。
『では、今日はどこかに泊まりましょうか』
『でもこんな時間から宿なんて……』
『近くに北川の系列のホテルがあります』
『うっ』
そうだった。
北川家って、そういうところだったな。
苦笑して、仕方なくそのホテルに向かうことにした。
『柏木。何があったか聞かないの?』