花鎖に甘咬み


勝手に飛び出して、突き放して、挙句の果てにこうして突拍子もなく戻ってきたのに。




『聞けませんからね。私は執事ですから、お嬢様から自らお話して下さらない限りはこちらからは────』




ぱちぱちと瞬きを繰り返す。




『柏木は、もう私の“執事”じゃないでしょ?』

『……え』

『あのとき、主従関係はもうおしまいだって言ったよね! だから“執事”と“お嬢様”の関係は終わったの!』

『そんな簡単には……』

『簡単なことなのっ。柏木だって、晴れて自由の身でしょっ? だから、“お嬢様”って呼ぶのは禁止! ねっ?』




────というわけで今に至る。


ホテルで一晩過ごしたのち、朝ごはんを食べてすぐ部屋を出ようとする私を、柏木は慌てて追いかけてきたのだ。




「柏木」




ようやく横に並んだ柏木を振り向けば、彼は神妙な顔つきをしていた。首を傾げると、柏木は。




「ところで、お嬢────ちとせさんは、いつまで俺を“柏木”と呼ぶんです? 主従関係でないなら、苗字で呼ぶのはいささか変ですが」



それは……そうかもしれない。




「じゃあ……唯月(いつき)くん……?」

「あー……懐かしいですね」


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