花鎖に甘咬み
「森宮さんとは……お父様が決めた人とは、結婚なんてしない!」
「……はあ、やはりな。ちとせはまだ何も分かってない。分かっていないから適当なわがままを言っているんだろう。お前と森宮のご子息との結婚で、どれだけの利益がこの家にもたらされるか────」
こめかみを押さえたお父様。
きゅっとこぶしを握って、私は1歩前へ出た。
「そのことなら、手を打ってあるわ」
「はあ?」
「唯月くん、“出番”」
背後を振り向くと、静かに息をひそめていた唯月くんが柱の影から現れる。差し出した手に、望み通りの書類が手渡された。
それを見たお父様は目をつりあげる。
「柏木……お前」
「……」
「ちとせの味方をするのか? お前がちとせになにか吹き込んだんじゃないだろうな?」
お父様────北川家の絶対権力の鋭い視線を受けてなお、唯月くんは緩慢に口角を上げる。
「いえ、私は何も。───ただちとせさんをお慕いしているだけですが」