花鎖に甘咬み
唯月くんから受け取った書類を、とんと揃えてお父様に差し出す。これが、私に今できる最善策のはずだ。
さっと目を通したお父様が、ぴくりと眉を動かした。
「……これは」
「計算したの。1枚目の左が、私と森宮さんの婚約が成立した場合に北川グループにもたらされる見込み利益。どう? 多く見積ってもそれくらいだと思うの」
「お前が計算したのか?」
「うん。……や、まあ、会計の責任者の方の力も借りながら……だけど」
「本社に行ったのか」
こくり、頷く。
お父様は信じられないとでも言いたげな顔をしていた。
そんなお父様をよそに、私は書類の右側をとんと指す。
「それで、右の数字が大事なの。これは……北川グループの新規事業を始めた際に考えられる見込み利益。比べると一目瞭然でしょ? 私が結婚するより、こっちの方が断然いい。それに結婚でもたらされる一時的なお金より、ずっと長期的に安定した利潤が生まれる」
「おい待て。新規事業だと?」
「うん。北川グループは今でもいろんな方向に事業を拡大しているけれど……まだいくらでも模索できるはず。特に今は同じように富裕な客層ばかりをターゲットにしているけれど……もっと、身近に親しんでもらえるようなコンテンツはきっと必要になる。だから、考えたの」
「考えた?」
「2枚目以降を見て。これが私の考える北川グループの新規事業。会社の人たちにも確認してもらって、これなら挑戦する価値があるって言ってもらえた。サインももらってある」
「……」
とても……とても、大変だった。
一大グループの新しい企画を社長の娘とはいえ、社員でもないただの高校生が立案するなんて、普通はできない。