花鎖に甘咬み
× × ×
「……泣かないんですね」
「このくらいで泣くもんですか」
「俺は、てっきりお嬢様は泣かれるのかと」
お父様がいなくなった書斎。
唯月くんが意地悪く顔を覗き込んでくる。
逃げるように、ふい、と顔を背けた。
「知っていたので。昔から、お嬢様がずっと葛藤されているところを、一番近くで見ていたのは……見ているだけだったのは、俺ですから」
「唯月くん」
言いたいことはいろいろあるけれど、とりあえず。
「お嬢様呼びはやめてって言った」
「……ああ、そうでした。“ちとせさん”」
それでよし、と頷く。
「それから、ありがと。唯月くんの力を借りなきゃ、たぶん、こんなに上手くいかなかったよ」
「俺は別に何もしてませんよ。あなたが解決したんです」
「ううん、ありがとう」
ぺこ、と深く頭を下げると。
少しうろたえた唯月くんは、数秒のち、神妙な面持ちで切り出す。
「これで、一件落着ですか」