花鎖に甘咬み
ばら (side M)
× × ×
【 SIDE/ 本城真弓 】
「うわー、ひっどい傷」
断りもなく部屋に入ってくるなり、燈は顔をしかめた。
「それ、歩けるの?」
「動くなら問題ねえだろ」
骨のひとつ、ふたつくらいは折れているかもしれない。
この街で医者にかかれるはずもなく、ましてわざわざ診察してもらおうとも思わず、真偽は定かではない。
血のにじむ無数の切り傷に、青黒く変色したアザ、鈍い痛みの残る足にぐるぐると自分で巻きつけた包帯をぼんやり見つめる。
さすがに、今回ばかりは見るに耐えねえな。
「あの状況で、よく生きてたね」
「……あー」
数日前の抗争の顛末を思い返す。
ちとせが茨の〈外〉へと無事に逃れるのを見届けたあとのこと。
言葉のあやでも冗談でもなく、散りかけた。
正直なところ、ちとせと別れてからのことをほとんど覚えていない。
記憶がおぼろげになるほど、ギリギリだった。敷いたのは背水の陣、後ろはおろか、左右にも逃げ場のない袋小路。
自分で整えた舞台とはいえ、ほぼ賭けだった。
結局、追手の〈黒〉を殲滅すると同時に、俺も意識を失って倒れていたらしい。
燈に回収され、ここ────〈赤〉の倉庫に戻ってきた俺は、この数日間ずっと眠りこけて、今に至る。