花鎖に甘咬み
賭け、とはいえ。
「くたばるわけにはいかなかった」
「……。それは、あの子のため?」
「あいつに変なものを背負わせたくねーんだよ」
別に、俺はどっちでもいい。
だけど、あれで俺が尽きれば。
それを、万が一にでもちとせがどこかで耳にすれば。
ちとせは、勝手に一生、その責任を背負い続けるだろうと簡単に想像がつく。
責任だとか、罪悪感だとか、そんなほの暗いものはちとせには似合わない。
だからこそ、どんなに無茶でもこの作戦ではせめて、生き残る必要があった。
目覚めて一番に感じたのは、安堵だった。
「よく言うよ。あの子を騙して、捨て身で大がかりなこと仕掛けておいてさ。何も、あそこまでやる必要あった?」
「あんだよ、それが。ちとせを納得させるために」
出て行け、と口で言ったって、「はいそうですか」と簡単に頷くような女じゃない。並々ならぬ覚悟をもってここにいると決めたことを知っていたからこそ、────それをはなからへし折るくらいのことをする必要があった。
悪いことをしたと思う。
罪悪感が疼かないと言えば嘘になる。
あの場で起きたことに偶然はひとつもない。全て、俺が仕組んだことだ。
道中で〈黒〉の連中と鉢合わせることも、逃げこんだ先が行き止まりであることも、そこにあの扉があることも、俺がその扉の鍵を持っていることも。
何もかも、燈や伊織の手を借りながら、俺が裏で糸をひいた。
ちとせを、確実に〈外〉へ帰すために。
『もう、離さない』
────なんて、ここに残ると決断したちとせにあんな大口を叩いたくせに、今となっては真っ赤な嘘だ。裏切られた、と罵られても仕方がない。
もしも今顔を合わせたら、彼女はなんと言うだろうか。頬をふくらませて、ぴんと伸びた背筋、眉をつりあげて、それでも全然怖くない顔で────ふわふわとした思考回路で、そんなことを考えて。