花鎖に甘咬み


ふと、燈がじっとこちらを見ていることに気づく。

執拗なほどの視線に、怪訝な顔をすれば、燈は息をついて。



「食べる? メロン」



なぜか皿を差し出してくる。
乗っているのはなぜかメロンだった。



「花織からの差し入れ」

「今、腹減ってねえんだわ」

「何言ってるの。この数日まったく食べてないくせにさ」

「食う気にならねーんだって」

「食え。これは命令だよ」




フォークを突き立てた果肉を口内に無理やり押し込んで来る。

ぐえ、とえづきそうになって慌てて飲みこんだ。やることがおっかねえんだよ、と心の中で毒づく。


あどけない童顔からときに放たれる “命令” は絶対服従の圧を孕んでいる。



じゅわ、と噛むたびに広がっていくメロンの味は、さすが果物の王様と謳われるほど、たしかに高貴で上品で香り高い。



ふわ、とまた無意識にちとせの姿を思い浮かべた。……味覚は庶民派な彼女は、メロンは好きだろうか。考えたところで答えが見つかるはずもない疑問が脳内をたゆたう。


そのとき、少しの間黙っていた燈が沈黙を割った。




「そもそも疑問なんだけどさ。あの子を〈外〉に帰す必要なんて、本当にあった? あの子はこの街にいたがってたんじゃないの」




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