花鎖に甘咬み



「あいつは────むやみに傷つけられていい女じゃねえんだよ」




白い肌も、細い髪も、長いまつ毛も、呆れるくらいキラキラした瞳も、きゃんきゃん騒ぐ声も、些細なことでくしゃりと笑うところも、なによりそのまっすぐ澄んだ心も、全部、何もかも、全部、かすり傷ひとつつけたくない。


守りたい。

ちとせが傷つけられることが、怖い。

ひどく怖いと思った。

そんな感情、どこかに置いてきたはずだったのに。



怪我をしたちとせを見て、都合よく忘れていたことを思い出した。そうだ、ちとせは、こんなにも簡単に傷つけられてしまうか弱い存在だったのに。



意識を失った彼女を抱えて、また思い知らされる。強烈で、鮮明で、出会った瞬間からあまりにも存在が大きかったせいで忘れていた、ちとせは小さくて細い、華奢な女だということ。



……もっと、早く思い出すべきだった。




「傷つけられない場所があるなら、そこへ帰るべきだ。そもそも、あいつはここに “迷いこんだ” だけなんだよ」




住む世界が、最初から違った。


出会うべきじゃなかった、交わるべきじゃなかった、まっとうな人間であるちとせと、〈猛獣〉の俺なんか。

俺に捕まったのが、ちとせの運の尽きだ。このまま〈薔薇区〉にいれば、俺のそばにいれば、また傷つけられていつかは不幸になる。


俺に出会ってしまったせいで────なら、その前に。




「あいつは〈外〉で、幸せに生きていくべきだ」





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