花鎖に甘咬み


手放せばいい。
握りしめた手を離して、俺が、背中を押せば。



ちとせは元の生活に戻って、苦しむことなく生きていける。ちとせなら、〈外〉で感じる理不尽くらいどうとでもできるという確証があった。それなら、ちとせをここに引き止める理由も、その必要もない。



これが “捨てどき” だと思った。




「なるほど。……真弓にしては、ずいぶん殊勝なことを言うんだね。それが、真弓の本心ってわけだ?」




俺の言い分を聞いた燈は、するりと自らの顎を親指でなぞった。

それは燈のよくやる癖のひとつで、そうするときはいつも、容赦がない。


例に漏れず、燈はその暗赤色の瞳の真ん中に俺を映して。




「でもさあ、どうにも腑に落ちないことがあるんだよ」

「……なんだよ」

「あの子のこと、そんな簡単に手放しちゃうくせに、伊織や僕にはがるがる噛みついてさ。あれ、威嚇だよね、どうみても。俺の女に近づくなーって独占欲丸出しの」

「……」



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