花鎖に甘咬み


「真弓さー、余裕ぶっこいてるけど、あの子が〈外〉で他の男とどうこうなってもいいってことだよね、手放すってことは。触れられても、噛みつかれても、それ以上のことも、文句は言えないってことだけど」



ぴくりと、無意識に動いた眉を見逃さず、燈は畳みかけてくる。



「気づいてた? 真弓はさ、あの子のことすげえ大切にしてたって。たぶん、真弓が自覚してるよりも、もっと。だって異常なんだよ。“あの” 真弓があの子のことになると、僕らのこと頼るんだよ。誰の手も借りようとせず、〈赤〉にいることさえ阻んだ真弓が、だよ」

「……俺は、別に」

「じゃあ、いつか、あの子のことも忘れられるの?」




ごくりと唾をのむ。

忘れる? 俺が?
ちとせのことを?




「そっか、簡単に忘れられるんだったか。だって真弓は他人のことなんて “どうでもいい” だったもんね?」




忘れるって、なにを。
全部を……?



いや無理だろ、とあたりまえのように思う。

だって、こんなにもはっきり覚えているのに……と記憶をたどってまた気づく。

ちとせの声も匂いも表情も、交わした言葉のささいなところまで、鮮明に脳裏に焼きついて離れないことに。




「どうでもよくないなら、真弓のそれは、何なわけ」

「……は」




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