花鎖に甘咬み
まっとうな人間? 俺が?
愛に嫌われ、堕ちるところまで堕ちた、俺が?
絶句する俺に、燈はさらに言葉を重ねる。
「思い出してもみなよ。あの子がここに“迷い込んだ”んだとしたら、真弓だってそうだろ。真弓は理不尽にここに閉じ込められただけだ、本来なら〈外〉にいてまっとうに────愛を享受するべき人間だ」
「……んなの、今さら」
「どうにもならないなんて、本気で思ってる? 最初から抗うことすらしなかったくせに? 〈薔薇区〉から、真弓ひとりを〈外〉に出すことくらい、どうってことないんだよ、お前がそれをしようとしなかっただけで」
現に、真弓は何度も扉の鍵を手にしていただろ、と燈が続ける。
「なあ、真弓の運命なんて所詮その程度なんだよ。運命のひとつやふたつ、本気で抗えばいくらだって書き換えられる。……なのに、真弓はいつまで〈薔薇区〉に囚われているつもり?」
息をのむ。
考えないようにしていたことを目の前に突きつけられて、弱い自分の心と真正面から向き合わされて、そしてようやく本心が顔を出す。思わず、ため息をついた。