花鎖に甘咬み


諦めていいの?と燈が問う。

諦めたほうがいいと、ずっと言い聞かせていた。



溢れて昂ってどうにもならない感情も、押しこめて、締めつけて、いつか “捨てられる” からと。空っぽな俺は、いつだってそうして生きてきたはずだから、と。



なのに考えれば考えるほど。


“捨てた” はずのものが心のど真ん中に居座っている。ギラギラと眩く主張するそれは、いつ見ても眩しい彼女と結びついて────いつの間にか、頭のなかから離れなくて。


きみのことばかり、考えている。




「燈」

「うん?」



どうしても、捨てられない。
諦めたくないものが、あるならば。



「……俺は、どうすればいい」



情けなくこぼれ落ちた言葉を拾って、燈は「ふは」と笑った。



「やっと言ったな?」

「……降参」

「白旗上げるのが遅すぎなんだよ。とりあえず、真弓、動ける?」

「鈍るが、問題ない」

「OK。じゃあ移動するよ」

「は? 今から?」



目を見開く俺に、燈はにやりと笑う。



「真弓。ちぃちゃんのこと、あんま舐めない方がいーよ」

「は」

「あの子、お前が思ってる数倍は肝座ってるから」



意味のわからないことを言いつつ、そそくさと部屋を出ようとする燈を慌てて追う。理解が追いつかない。

戸惑うばかりの俺を、ふいに振り返った燈は。



「真弓、お手」

「は?」

「ソレ、意識ぶっ飛ばしても、ずっと固く握りしめてたよ。信じられないくらい強い力でさ」



広げた手に、燈が何かを乗せる。

ころん、と転がったのはすずらんを模した銀のブローチ。



「真弓があの子のこと、手放せるはずがないんだよ」

「……」



最初からお見通しだった、ってことだ。

あーあ、と妙に悔しくなりつつ、ブローチを握りしめる。手のひらに跡が残るくらい、強く。


もう一度、あの手をとることを許されるなら。



「……手を貸してくれるか」

「なにを今さら。僕は何年も前から準備できてんだっつの」

「……助かる」

「なに、真弓が素直にお礼言うなんて、槍でも降ってきそうで怖いんだけど」




握ったその手は、もう二度と離さない。




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