花鎖に甘咬み
こわいものなしの王子
× × ×
【 SIDE/ 北川ちとせ 】
「っ、ひっ、花織さん……っ!」
「なに、ちょっとは大人しくできへんの?」
「違っ、あのっ、もうちょっと安全運転でお願いしたいのですが……っ、きゃっ!?」
言ったそばから、ぐわんと大きく車体が傾く。
どう考えたって、これは“暴走”の域で、すさまじくかかる遠心力にいつ吹っ飛ばされてもおかしくない状況だった。
「急ぐんやろ。ぐだぐだ言わずにお利口さんにしてくれへん?」
「そりゃあ急いでますけど、吹っ飛ばされたら元も子もないというか」
「言っとくけど、あんたが落ちても、自業自得やで。振り落とされたくなかったら、せいぜい歯くいしばって我慢しろよ、オジョーサマ」
「お、横暴な……」
私の心とはうらはらに、花織さんはさらにアクセルを効かせる。
暴走どころじゃないスピードで疾走するバイクの上で、私は内心頭を抱えた。
真弓の運転するバイクに乗ったときも、そのあまりのスピードに驚いたけれど、あれでも真弓はちゃんと手加減してくれていたんだと知る。対して花織さんの運転は、ほんとうに私が振り落とされようがどうでもいい、お構いなしって感じで────。
そもそも、なぜ、こんなことに────花織さんの運転するバイクの後ろに乗ることになっているか。
それは、数日前、お父様に啖呵を切ったあの日のことに遡る。