花鎖に甘咬み
「えと……それは」
「家出したっつってたろ」
じ、と真弓の読めない瞳に捕まる。
具体的にどこから……ってこと?
そんなの個人情報、教えるわけあるもんか────なんていうのは、もう、今さらの話なわけで。
なんでだろう。
いい、って思う。
真弓になら、ぜんぶ暴かれてもいい。
私のぜんぶ、このひとに渡してもいい。
「……あれ、私の家」
ふー、と息をついて指をさす。
まっすぐ、闇を切るように。
忌々しいことに、無駄に大きい我が家はここからでも柵の向こう側にそびえ立っているのがちゃんと見える。
権力の大きさの分だけ、屋敷も大きくなる。“由緒正しき良家” っていうのは、そういうもの。
なんてむだなんだろう、あの大きさがあっても、あのなかには、なーんにも詰まっていないのに。
「……マジか」
何にも動揺しなさそうな真弓の瞳がぐっと見開く。
「そんな驚く?」
「お前、生粋のオジョーサマじゃねーかよ」
む、と頬をふくらませる。
「その呼び方、だいっきらい」
「ったくワガママだな」
「ヤなものはヤなの! お嬢様なんて薄っぺらい、私の後ろ盾しか見てないような呼称は、なんか、むかつく!」
「っふは、わかったって」
「それに私はもうオジョーサマじゃないし! 家出したんだから!」
「はいはい家出少女なわけな」