花鎖に甘咬み
言葉とはうらはらに、とがめるような口調じゃなく。
苦笑するような声のトーンにはどこか嬉しさがにじんでいた。
ぱ、と顔を上げると、目が合う。
真弓の瞳は逃げることなくまっすぐ私に向けられていた。
「会い、たかった」
ほろり、と本音がこぼれる。
真弓に突き放されたあのとき、言えなかったこと。
「あのね、私の帰る場所はちゃんとあったよ。お父様ともちゃんと話せたよ。真弓の言うとおり、私をしばりつけていたものは、簡単になくなって────でも、でもね、それだけじゃ、私、幸せになれないよ」
「……うん」
「好きなの……、真弓のことが、好きなの。私の未来には真弓がいなきゃ、意味がないんだよ。まだ、真弓と作ったシチューを食べてないし、真弓のピアノでヴァイオリンを弾いてないし、いっぱい、いっぱい真弓としたいことがあるの!」
「うん」
「私のわがまま、聞いてくれるっ?」
願うなら、きみと、一緒に未来がみたい。
明日の話を、明後日の話を、1年後の、それからずっと先の話を、きみとしたい。
出逢ったあの日とは反対だ。
私が差し伸べた手のひらに、真弓は迷わず手のひらを重ねて、もう離さないと言わんばかりに、ぎゅっと握った。
その手が震えていたのは気のせいだろうか。
「……ありがとう」
らしくないことを呟いて、きゅ、とさらに強く真弓が手に力をこめる。
「ちとせ」
「……っ」
「連れてってよ。俺を、見たことのない世界に」