花鎖に甘咬み
馴染みのある声が上から聞こえてくる。
角を曲がった突き当たり、高い茨の柵。
どういう仕組みを用意したのか、唯月くんはその柵から身を乗りだしてこちらに向かって腕を伸ばしていた。
あまりに雑な脱出方法に突っ込みたくなるけれど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「っ!」
必死に走って、唯月くんの腕を掴む。
彼の細い腕からは想像もできない強い力で引き上げられて、まず、私が柵を駆け上がる。
「っ、はあっ、真弓!」
あとは、真弓を。
ぱ、と振り返って真弓に向かって腕を伸ばす。
「っ、は」
まとわりつくように追ってくる〈黒〉の男たちを蹴倒しながら、真弓がこちらに向かって腕を伸ばして────もう、あと数センチで指先が届く、そのタイミングで。
カチャ、と真弓の背後で嫌な金属音がする。
「最終手段だ! 撃て!」
背後に迫る〈黒〉の男たちが一斉に取り出したのは、拳銃。
黒光りする銃口が狙いを定めるように真弓に向かう。
心臓がひゅっと嫌な音を立てた。
「真弓っ!」
もう少し、あと少しで届く。
身を乗り出して、必死に手を伸ばして。
はやく、はやく届いて。
早く、お願いだから。
「……っ!」
私がその手のひらに真弓の体重を感じたのが、先か、はたまた後か。
────パンッ!
耳をつんざくような銃声が宵闇に響き渡った。