花鎖に甘咬み
真弓がそれを口にするのに、どれだけ勇気がいっただろう。
私はこくこく、と何度も頷いて。
「そんなの、当たり前のことだよ」
「はは、そーかよ」
屈託なく、嬉しそうに笑った真弓は、体を少し起こして、ちゅ、と軽く唇を合わせる。
ふいうちに赤く染まった私の頬をぐりぐりと撫でながら。
「────ちとせを〈外〉に突き放したあと、もうちょっとで幻覚見えそうなくらい……会いたかった」
それは、私も同じだ。
今一緒にいることが、やっぱり少し信じられない。
だけど、この先もずっとこれが続くように。
私たちは運命に抗って、抗って、思うままのふたりの未来を、運命なんかに狂わされない、たしかな未来を。
「つーか、お前の方がよっぽど王子だな」
「へっ?」
「前に、お前、俺のこと“王子様みたい”とか言ってただろ。考えてみれば、俺のためにあんな危険な場所乗り込んでくるし、お前のキスで目覚めるし、ちとせの方が王子じゃね?」
「え、や、やだ……。お姫様がいい……」
「なんでだよ。褒めてんだろうが」
「だって、お姫様の方がかわいいもん!」
「それだけかよ。ちとせがかわいいのは当たり前だろ」
さらりと告げられる甘い言葉に慣れず、固まる。
そんなぎこちない私を楽しむように、真弓は笑みを浮かべながらこちらを眺めていて。
「ちとせ」
「真弓?」
ふいに名前を呼ばれてきょとんとすると、真弓が私の後ろ首に手を回して、引き寄せる。
こつん、と軽く額同士がぶつかって、至近距離で真弓はとろけるような甘い顔で笑って。
「愛してる」
fin.