花鎖に甘咬み
「ちとせ」
「……!」
「俺といんのに、なに余所見してんの」
真弓の不服そうな声に、はっと我に返る。
そして図らずともグロテスクな傷口を視界に入れてしまった。
ううう……と眉を寄せると、真弓が「くはっ」とおかしそうに肩を揺らす。
「なんつー顔してんだよ」
「い、痛そうすぎて見てられないよっ」
「そうか? 痛みはもうほとんど感じねえな」
「マヒしてるだけじゃないの……」
「つか、ちとせ。包帯替えてくれるんじゃなかったっけ」
「うっ」
「言っとくけど、ちとせの方からやるって言い出したんだろ」
『傷口を清潔に保つため、最低でも1日に1回はガーゼと包帯を替えてください』
お医者さんにそう指示されたのだという真弓。
今まで〈薔薇区〉でもそうしてきたのか、慣れた様子で自ら包帯を替えようとした真弓に、『私がやる……!』と宣言したのは、たしかに、私自身、なのだけど。
だって、ただお見舞いに来て、何もせずにいるのはもどかしい。
ちょっとでも真弓の役に立ちたい。
そう思ってのことだったのだけれど、いざ包帯をはずすと、想像以上にひどい傷口があらわになって、怖気づいてしまったわけである。
でも、いつまでも固まっているわけにもいかなくて……。