花鎖に甘咬み


「おいで」


真弓が手招きするのは、彼の体の上。
だけど、それは、さすがに……。


「傷! 傷、開いちゃう……っ」

「何言ってんだ、これぐらいじゃ開かねえから安心しろ」

「安心できるわけないっ」

「お前に触れないほうが体に毒なんだけど」

「っ!」


甘えるように、そんなことを言われてしまえば、抵抗できない。

おそるおそる、真弓と向き合うような形で、腰骨のあたりに体重を乗せると、すぐさま抱えこむように腕が回ってきた。



「やっぱ、お前抱き心地いいな」



ぎゅっと、ぎゅーっと、隙間もなくなるくらいに強く抱擁される。

ふたつの体の合間で心臓の音がとくとくと響いていて、それがどっちのものかもわからない。


ただ、温かい体温に、泣きたくなるくらい幸せだと思う。

私をしっかり抱きしめたまま、真弓は耳もとで口を開いた。



< 335 / 339 >

この作品をシェア

pagetop