花鎖に甘咬み


今どき、そんなセリフ、少女マンガのヒーローだって言わないと思う。……マンガ、なんてほとんど読んだことがないけれど。



でも、そんなセリフさえキザにならない。
真弓が言うと、少しも冗談っぽくならない。



正直に言うと、けっこう、ドキッとした、かも。




「なんだよ」




真弓の漆黒の瞳のなかに、私がいる。
現実味がないまま惚けていると。




「文句あんなら、言えば」

「文句とかじゃないけど……」

「けど?」

「どこまで歩くの?」




もう、かなり歩いてきたような。
いや、実際はそんなこともないのかもしれない。


けれどまわりの無機質な景色は歩けど進めど、まったく変わらない。どこまで行っても変わりばえのない視界は、心を蝕んで、足どりを重くする。



体力と精神状態って比例するんじゃないかしら。

心細さに、元気が吸いとられていく。




うう、足がそろそろ限界なのだ。

休む暇もなく、逃げたり追いかけられたり、戦ったり、また逃げたり。ちょっとでもいいから、座りたい。足が棒切れみたいだもん。


もうすぐ言うことを聞いてくれなくなる。




「ね、ねえ、真弓……」



ちょん、と袖を引くと。
真弓の視線が落ちてくる。


暗闇のなかでは、呼べば振り向いてくれるこのひとの真っ黒な瞳だけが道しるべ。




「ああ」




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