花鎖に甘咬み
「回るお寿司に行ってみたかったのっ、ずっと!」
「お前、ほんと普通じゃねえな」
「へっ? なんでっ?」
「フツーの人間はだいたい回らない寿司に憧れんだよ」
「回らないお寿司なんてつまらないだけよ」
思ったまま、言っただけなのに。
なぜか真弓が思いっきり吹き出した。
「今、お前全国の寿司職人敵に回したぞ」
「うそっ」
お寿司職人の方ってどれくらいいるんだろう。
1万人はゆうに超えるかな……。さすがに頭突きじゃ勝てないな。
なんて、わりとどうでもいいことを考える。
「ま、安心した。トリュフとかフォアグラとかキャビアとか? そーいうものをご所望されたらどうしようかと」
「真弓は私のこと、なんだと思ってるの」
「生粋のオジョーサマ」
「げええ……」
思わずがっくりうなだれる。
家出までして、まだお嬢様扱いされなきゃいけないの?
もう、うんざり。
という感情を隠そうともせず顔をしかめると。
「嘘に決まってんだろ、ばーか」
真弓の指が、伸びてきて。
私の眉間に寄ったシワをぐいーっと伸ばした。
「ヘンテコで大胆な変わり者のオジョーサマ」
「な……っ」
「そう思ってる、ちとせのこと」
「お嬢様なのには変わりないんじゃん! しかも、ぜんぜんっ、褒められてないっ!」
「は? 褒めてるだろ最大限」
どこがだよ。
心のなかで切れ味鋭くツッコミを入れる。
そんな私の心中などつゆ知らず。
真弓はしれっとした顔で言葉を続けた。
「見てて飽きないっつってんだよ。たぶんちとせのこと、24時間365日ずーっと見てても飽きねえわ、俺」
舐めるような視線が肌をなぶっていく。
真弓にそうやって見つめられると、心臓に、わるい。
「めちゃくちゃ興味あるんだよな、ちとせに。ちとせが次に何するか、何言うか、全部知りたくてしょうがねーっつうか。────初めてだわ、誰かに対してこんな風に興味湧いてくんの」