花鎖に甘咬み
伏し目がちの瞳が、私の輪郭をなぞる。
なにかを試されているみたいな心地がして、落ちつかない。
「ちとせは、特別」
ぽつり、真弓がそう呟いたかと思えば。
次の瞬間には片手のひらが奪われて、真弓にぐいと体を引かれる。
「ってなわけで、行くぞ」
「どこにっ?」
「あ? お前が決めただろうが」
「えっ?」
「回転寿司、だろ」
「えっ、ほんとに連れてってくれるの!?」
無言の肯定。
「や、やった! うれしいっ、ありがと真弓っ」
ばんざーい、と手を上げて喜ぶと、真弓が苦笑する。
「これくらいでそんな大袈裟に喜ばれると調子狂う」
「だってずっと行ってみたかったんだもん、お父様も柏木も回転寿司には絶対連れて行ってくれなくって」
「今、ナチュラルにお父様っつったろオジョーサマ。つか、カシワギって誰」
うっ。
執事って言ったら、どうせまたオジョーサマってからかわれるんだ。
それはやだなあ。
「っ、柏木は柏木だもん」
「ふーん。男?」
「うん。なんだかんだ、柏木が一番頼りになるんだけどね。私にはちょっと甘いし、優しいし」
「……。あっそ」
興味ないって感じの冷めた返事。
まあ、そうだよね。真弓にとっては顔も知らない誰かもわからない人だもん。
気を取り直して、会話の方向を転換させる。
「お寿司屋さんって、この近くなの?」
入ってきたときと同じ、隠し通路の入り口をくぐりぬけて。
真っ暗なあたりをきょろきょろと見渡す。
また〈黒〉のひとたちや、花織さんに見つかってしまってはいけないと、息をひそめて尋ねる。
「あー……、いや」
「いや?」
「残念ながら 〈薔薇区〉 に寿司屋はない」
「えっ」