花鎖に甘咬み
旅にでる
× × ×
「どういうことっ?」
堅く頑丈な柵が、びっくりするくらいあっさり開いた。
その隙間をくぐり抜けて。
後ろ手にまたギィィ、と扉を閉ざした真弓に問いただすも、答えてくれる様子はなく。
「話は後で聞いてやる」
「あとで、って」
「まずは移動。長居するとバレる」
「バレちゃ、そんなにだめなのっ?」
「無事でいられるんだと思ってんなら甘すぎ。奥の手っつったろ、奥の手っつうのは、つまり禁じ手だ」
「禁じ────っ、ひゃあっ」
なんの前触れもなく、足が宙に浮いた。
抱え上げられたのだと、数秒遅れて知る。
いつかの指摘が効いているのか、雑な俵担ぎじゃなく、丁寧なお姫さま抱っこ。
でも、落ちつかないのには変わりなく。
「い、いいよっ、自分の足で歩けるっ!」
「あ? もうお前の足ボロボロなのこっちは知ってんだよ。それに、担いだ方が早い」
下ろすという選択肢は、最初からなかったらしい。
あたりまえのように、スタスタと歩き始めた真弓に、私も抵抗をあきらめた。
「あの、真弓、禁じ手って……」
「いいからちとせは、このあと食う寿司ネタでも考えてろ」
遮られちゃった。
よほど、外でははばかられる話みたい。
おとなしく腕のなかで黙りこんだ私に、真弓は薄く笑った。