花鎖に甘咬み
私も2年後になったら、これくらい大人っぽくなれるのかしら。
……なれない気がするな。
「真弓は、家族はいるの?」
「なんだその質問」
「ふつうに、気になっただけだよ。だって……真弓にあんまり、家族がいる感じがしないから。お父さんとか、お母さんとか、いるの?」
「ふは、いるだろ。どう考えても。じゃなきゃ、俺はどうやって生まれんだよ」
それはそうなんだけど。
不服に唇をとがらせると、真弓は三本指を立てた。
「父、母、弟」
「えっ、弟いるのっ? いいなあ、私ひとりっ子だからうらやましい。弟、かわいい? どんな人? 真弓に似てる?」
「さあ」
「なによう、もったいぶらなくても……」
「覚えてねえし、顔も性格も」
「へっ? 弟なんでしょっ? 真弓の」
「弟 “だった”。父も母も弟も “いた” 事実があるだけだ」
ぜんぶ、過去形だ。
思わず目を見開く。
デリカシーないかなとか考えるより先に、疑問が口をついて出た。
「いた、ってことは今はいない……?」
「まー、いないのと同じだな。俺にとっては」
「どういうこと?」
「さあ?」
軽く肩をすくめた真弓は、この話は終わりだと言わんばかりに口を真一文字に閉ざす。
これ以上探るのはやめておこう。
さすがに失礼だよね。
聞かれたくないことだって、あるはず。